親権・監護権
目次
- 1 親権・監護権とは
- 2 親権者を決めないと離婚できない
- 3 親権者の変更
- 4 非親権者の面接交渉権
- 5 親権者と監護者が異なる場合もある
- 6 夫婦間の協議で決定する
- 7 親権者を定める調停又は審判
- 8 親権者決定の実情
- 9 男性の親権取得は難しい
- 10 監護能力(高いほど良い)
- 11 家庭環境(快適な方が良い)
- 12 子どもに対する愛情・育てる意欲(高い方が良い)
- 13 経済力(高い方が良い)
- 14 子どもの年齢(低いほど母親が有利)
- 15 親族の協力体制(協力者が多いほど良い)
- 16 子供の意思・従前の監護状況(なついている方が有利)
- 17 健康状態(健康なほど良い)
- 18 男性の親権獲得が難しい実情
- 19 子供の氏を妻と同じにする方法
- 20 子の氏の変更許可審判を申し立てられる者
- 21 審判前の保全処分
- 22 直接強制
- 23 間接強制
- 24 子の引き渡しを求める3つの法的手段
- 25 家事審判または調停
- 26 人事訴訟
- 27 人身保護請求
- 28 子の引き渡請求の申し立てから強制執行まで
親権・監護権とは
親権とは、父母が未成年の子に対してもつ身分上及び財産上の養育保護を内容とする包括的な権限及び責務の総称です。
離婚をする際に未成年の子供がいる場合には親権者を決めなければなりません。これは”親の権利”というよりも”子供に対する親の責任と義務”ということの意味が強く含まれています。親権には以下の2つに分ける事が出来ます。
親権者を決めないと離婚できない
離婚をした場合、未成年の子供がいる場合は、夫婦のどちらかが子供の親としての権利や義務を受け持つという『親権者』を決める必要があります。離婚届には親権者を記載する欄があり、記入がなければ離婚届けを受理されません。
これに対し、慰謝料、財産分与、養育費等も、離婚の際にキチンと話し合っておくべきことではありますが、離婚届の記載事項とはなっていないため、特別な取り決めがなくても離婚が認められています。
親権者の変更
一回決定した親権者を変更するには家庭裁判所に親権者変更の調停、審判を申立てなければなりません。認められるのは子供の視点に立って変更が必要であるとされた場合のみとなっています。
非親権者の面接交渉権
親権も監護権も取れなかったとしても子供に面会、電話、手紙、訪問等で接触する権利はあります。法律では親が自分の子供と面会交流する権利を明確にはしていません。
しかし子供の側に立ってみれば離れて暮らす事となった親と会う権利は当然あると考えるべきで、離れた親と会いたいと願う子供の為の権利と言って良いでしょう。
親権者と監護者が異なる場合もある
親権者と定められた父母の一方が親権と監護権を持つのが一般的ですが、父母の一方を親権者、他方を監護者とされる場合もあります。
たとえ親権者になれなくても、監護者になれば実際に子供を手元において育てることが可能ですので、その意味では親権という名を捨てて、監護権という実をとる方法も意味があるといえるでしょう。
夫婦間の協議で決定する
離婚後の子供の親権者をどちらにするかは、まず夫婦間の協議で決定することになっており、この協議で親権者・監護権者が決定する場合は、家庭裁判所の関与は必要ありません。
しかし、お互いが親権者になる事を望んでいるなど、協議で決定しない場合は家庭裁判所へ親権者指定の調停、審判の申立てをすることになります。
調停あるいは審判でも決まらない場合は、地方裁判所に離婚訴訟を提起することができます。
親権者を定める調停又は審判
離婚する事自体に争いがなく、親権者を父とするか母とするか話し合いが成立しない時は、家庭裁判所へ親権者を定める調停又は審判の申立をする事になります。
調停の席でも親権の帰属が成立しないときは、ただちに家事審判手続に移行し(調停申立のときに審判の申立があったものとみなされて)、家庭裁判所が親権者を父か母に定めます。
調停を経ずに審判の申立をする事もできますが、この場合にも、家庭裁判所は、父と母が調停委員会の関与により話し合いをさせることが妥当であると考えるときは、調停に回す事が出来ます。
しかし、一般には、離婚と親権者の指定を分離せず一括して調停の申立をなし、調停不調の時は地方裁判所の民事訴訟手続により、判決を求めることが多いようです。
親権者決定の実情
審判や判決の場合、父が親権者になる事は、2~3割程度であり、圧倒的に母親が親権者と指定されることの多いのが実情です。
特に乳幼児~10歳くらいまでは、母親と一緒に生活するのが自然であると考えられ、80%以上は母親が親権者になっています。
男性の親権取得は難しい
親権があるほうが子供を引き取るという決まりはなく、二つの権利(親権・監護権)を分け、後で変更する事もできますが、小さなお子様が居る場合、男性が親権を取得するには非常に不利な状態であると言えます。
監護能力(高いほど良い)
監護者に求められる基本的な能力として炊事洗濯等の家事に関する能力が挙げられます。
男性の場合、炊事・洗濯などを日常的にこなしていないことが多いのでこの点が特に不利に働くことが多いようです。
但し、この点を補うため、早く帰宅することのできる職場に転職した(又は「転職が決まっている」「転職先を探している」)などの、具体的な行動を伴った「監護の意欲」が見られれば当然印象は良くなるでしょう。
家庭環境(快適な方が良い)
居住環境・教育環境は快適な方が良いです。たとえば、繁華街の近くの家と閑静な住宅街を比べれば、当然閑静な住宅街の方が安全の面でも教育の面でも好ましいと言えます。
また、親の職業・交友関係との関連で、どのような人たちが家に出入りしているかも子供の住環境を考える上では大きく影響してきます。
子どもに対する愛情・育てる意欲(高い方が良い)
子供に対する愛情の強さをはかる客観的な指標はありません。ただ、実務上の観点から言えば「愛情の強さをアピールすること」より「相手方の愛情の薄さをアピール」することの方が、多いと言えます。
そもそも、自分の子供に全く愛情を持ってない親はほとんどいませんから、愛情が強いと主張してもそれはある意味当然のことで、逆に親権者を決定する上では「当然持っているべき愛情が欠落している」という点の方が重大な問題となります。
たとえば、妻の「不倫」は親権者決定の問題とは直接的には関係しませんが、不倫をする過程で「子供をほったらかしにして不倫相手と二人で遊びに出た」などの事情がある場合は、子に対する愛情に疑問を持たれることになるでしょう。
また、不倫相手と二人で遊びに行かないまでも、電話で延々と話し続ける日が続いて子供との時間を一切取らないような場合も同様に、愛情の面で疑いを持たれる可能性が高い考えられます。
経済力(高い方が良い)
子供を育てるためには一定の経済力(資産・収入)が必要です。経済的に豊かな方が子供を監護養育する上で好ましいことは言うまでもありません。
しかし、経済力が高さが決定的な基準になるかどうかというとそうではなく、基本的な生活ができるかどうかというレベルの話です。
たとえば、夫の年収が1億円なのに対し、妻の年収が300万円程度だったとしても、その他の点で妻の方が親権者として適確と認められるのであれば、妻が親権者として指定されることになります。
また、他方の親からの養育費等も考慮に入れた上で生活環境を考えていくことになります。前述の例であれば、年収1億円の夫が負担すべき相当額の養育費も考慮に入れた上で妻は「子供を養っていくことはできる」と主張することができます。
子どもの年齢(低いほど母親が有利)
0~10歳
衣食住に関して面倒をみることが必要なため、母親が親権者になるケースが多いようです。
10~15歳
子どもの発育状況に合わせて、子どもの意思を尊重することもあります。
15~20歳
15歳を過ぎれば自分で判断できる年齢であるとして、裁判所も子どもの意思を尊重します。
20歳以上または20歳未満で結婚したとき
子どもが成人に達していれば、親権の問題は関係ありません。また、20歳未満でも、結婚していれば成人した者とみなされ、その子の親権者の指定は必要ありません。
親族の協力体制(協力者が多いほど良い)
子供を養育監護する上では、協力者は多いほど良いと言えます。特に、責任ある仕事上の立場に置かれやすい夫は、実家の両親等の協力を得なければ、子供の日常家事をサポートできない事情等もあり、これらの事情から親権者の指定を諦めてしまう夫も多いようです。
また、妻の立場から考えてみると、親族等の協力が得にくい上に経済的な不安なども重なって「自分の力ではとても子供を育てられない」と親権者になることを諦めてしまうケースも多々あるようです。
いずれにしても、親族・友人等協力者は多いに越したことはありません。これがあるのとないのとでは親権者になることに前向きになれるかどうか、大きく違ってきますので、離婚時の協力体制に不安がある場合は、予め関係者に離婚した後の協力を求めておきましょう。
子供の意思・従前の監護状況(なついている方が有利)
従前の監護状況を見ていく中で「子供はどちらになついていたか」という点も大きなポイントとなります。例えば、幼少期は母親が直接的に子供の面倒をみる機会が多いこともあり、母親の方になついているケースが多いと言えます。
実際のところ、この点が母親が親権者の指定において母親が圧倒的に有利とされる理由ともいえるわけですが、逆に父親の方が日常的に子供の面倒をみており、子供も父親の方になついているような場合は、当然父親の方が有利といえるでしょう。
但し、子供が生まれて間もない「赤ちゃん」の場合は、前述の「なつく、なつかない」は検討できず、また「授乳は母親しかできない」という事実上の問題から母親の方が圧倒的に有利になります。
健康状態(健康なほど良い)
病気しがちでは、子供の面倒をみる上では大きなマイナスになります。親権者としての適格性を主張していく上では、「病気を隠す」とまではいかなくても「病気は持っているが日常生活には一切支障が無い」という点をキチンと説明できるようにしておいた方がいいでしょう。
男性の親権獲得が難しい実情
親権者決定の実情(親権7)審判や判決の場合、父が親権者になる事は、2~3割程度であり、圧倒的に母親が親権者と指定されることの多いのが実情です。
特に乳幼児~10歳くらいまでは、母親と一緒に生活するのが自然であると考えられ、80%以上は母親が親権者になっています。
親権があるほうが子供を引き取るという決まりはなく、二つの権利(親権・監護権)を分け、後で変更する事もできますが、小さなお子様が居る場合、男性が親権を取得するには非常に不利な状態であると言えます。
子供の氏を妻と同じにする方法
通常、離婚する妻は夫の戸籍から抜け、新しい戸籍に移りますが、子供の氏、戸籍は親の離婚によって直接の影響を受ける事はありませんので、父親の戸籍に残ることになります。
子供を妻の戸籍に入れたい場合は、子供を母親の氏に変更するため、家庭裁判所に対し「氏の変更許可審判」の申立てを行わなければなりません。(民法791条1項)
子の氏の変更許可審判を申し立てられる者
子供が15歳未満のときには、法定代理人(親権者等)が代行して申立てられます。15歳以上なら本人の自主的な判断で申立を行い、許可を受ける必要があります。(民法791条3項)
子の氏の変更は、子が成年であってもすることができますが、未成年のときに氏の変更をした場合には、子が成年に達した後1年以内に、従前の氏に復することができます(民法791条4項)。
親権者が父、監護者が母の場合は親権者である父の同意・申立てが必要です。
審判前の保全処分
審判前の保全処分審判、訴訟の前に相手が子どもを連れ去られた場合、子どもの安全を守るため、「審判前の保全処分」をして、子を連れ去った親に対しての子の引渡しを要求することができます。
監護者指定の審判申立てと合わせて子の引き渡しを求め、その審判の保全処分として別個に子の引渡しを申立てればよいのです。
ただ、仮処分命令を出すには、両親のいずれかを監護者とすべきか、子どもの福祉・利益の観点から十分調査されることになります。
人事訴訟法に基づく「子の監護者に関する仮処分」は、家庭裁判所に申立て、民事保全法の「仮の地位を定める仮処分」の規定を準用して判断されます。
審判や訴訟で勝って「引き渡せ」という命令が出ても、他方の親が、実際の引渡しをしてくれないこともあります。このような場合には、以下の強制執行を申し立てることができます。
直接強制
裁判所の執行官が子どものところに行き、子どもを取り上げて連れてくる方法です。
直接強制の方法によれば現実に引渡しがされますが、この方法は「子どもを物と同様に扱うもの」で意思や人格を持っている子どもを無視するものと考えられているため、一般道徳的にもやむを得ない緊急性の高い場合のみ実施されます。
間接強制
一定期限までの引き渡しを命じ、期限までに引き渡さなければ引き渡すまで「一定額の金額の支払い」を命じるものです。
子どもがまだ意思能力のない乳幼児で、不当に拉致誘拐されているようなケースでない限りは、この間接強制の方法により心理的強制を与えて引き渡させるのが通常です。
子の引き渡しを求める3つの法的手段
子どもに会いたいのに会わせてもらえなければ、「子どもの監護に関する調停申立書」を家庭裁判所に出し、面会交流を求めることになります。
離婚の話し合いがこじれたまま、妻が勝手に子どもを連れて実家へ帰ってしまい、妻が子どもに会わせてくれないような場合も同様に「子どもの監護に関する調停申立書」を家庭裁判所に提出し、面会交流の申立をすることができます。
離婚の話し合いに際して、別居中の父母のどちらが親権者になるかで争っており、どちらか一方が子どもを連れ去った場合、子どもの引き渡しを求める法的手段としては次の三つがあります。
家事審判または調停
「子の監護に関する処分」または「夫婦の協力扶助に関する処分」の申立てのことで、離婚していない夫婦の一方が引渡を求める場合は、まずこの調停から始めるのが通常です。
この請求は家庭裁判所ではなく、地方裁判所に申し立てる「訴訟」となります。子どもが連れ去られて緊急を要する場合、すぐに弁護士に相談しましょう。
人事訴訟
離婚訴訟を行っている場合に合わせて、その裁判所に「子どもの監護等の措置」を申し立てる。
人身保護請求
法律上、正当な手続きによらないで拘束されている者の救済を求める訴訟です。請求者には制限がありませんので、他の訴訟がない場合でも単独で申し立をすることができます。
ただし、「拘束の違法性が顕著(明らか)であること」が必要になります。
子の引き渡請求の申し立てから強制執行まで
- 一方の親に子どもが連れ去られた
↓ - 家裁に「子の引き渡し請求」の調停申立て
↓ - 調停で相手が引き渡しに同意すれば子を引き取れます。
↓ ※調停が不調に終わった場合 - 審判の申立
↓ - 審判に基づき相手方が子の引渡に応じれば子を引き取れます。
↓ ※相手方が引き渡しに応じない場合 - 強制執行